
「事業承継は偉大なる経営者が受けなければならない最後のテストである」ピーター・ドラッカーの言葉です。
事業は、現経営者の人生をかけて育て上げた子どものように大切なものであり、その事業を現経営者の手から後継者にバトンタッチし、将来にわたって持続させていかなければなりません。
事業承継は、これまでの経営者人生で成功を重ねてきた様々なプロジェクトよりも重要性が高く、失敗の許されないプロジェクトです。
事業承継では、「人(経営権)」「財産」「知的財産」が必要であり、準備を進めてから5年以上の歳月を要することもあります。
この3つを円満に承継するためには、まず自社の現状を把握して課題を設定し、具体的な取組内容を明確にして取組していかなければなりません。
以下の例から、この会社の課題を洗い出してみましょう。
会社の概要 |
現社長(70)が創業した売上高25億円、株主資本5億円の株式会社(製造業)。
創業から40年、人生の全てを注いできた会社で、現社長と一緒に頑張ってきた古参社員も健在の中、創業者の長男(35)と次男(32)が社員として勤務している。
株式については、商法改正前の設立であり名義株主が存在しており、評価は3億円にのぼっている。会社の資産は、売掛金と機械設備が多くを占めており現預金残高は1億円、役員貸付金も1億円積みあがっており、また現社長の個人名義の不動産も工場底地で使用している。
社員の就業状況は、固定残業制を導入しているが時間外勤務が常態化しており、うまく機能していない様子。現社長の家族構成は、現社長のほか妻、長男、次男、三男の4名。
課題の例 |
◆後継者の選定
後継者を長男にするか次男にするか、古参社員に任せるか。親族を後継者候補とした場合、もう1人の処遇をどうするか。
◆後継者の育成
親族を後継者とした場合、後継者候補に経営者としての教育を行い、古参社員にも認めさせていく必要がある。
◆組織の再構築
承継時の組織図を想定し、現社長引退時の古参社員の処遇をどうするか、後継者の参謀的な人材をどうするか、後継者が経営しやすい組織へ変えていく準備が必要。
◆時間外勤務対応
時間外勤務が常態化している原因を把握し、人員配置の見直しや設備投資等の検討により改善していく。
◆規程等の見直し
上記に合わせ、就業規則や賃金規程の確認や見直しが必要。
◆名義株式の整理
本来名義の確認を行い、真の所有者への変更を行う(定款の見直しを含む)。
◆事業用資産の確保
社長個人名義の事業用不動産を、後継者候補に確実に使用できるようにしておく必要がある。
◆後継者へ株式移転
株価引き下げ対策と、遺留分等を考慮した上で後継者に株式を集中させる手段を講じる。
◆相続税対策
役員貸付金等も含めて、対策後の相続財産にかかる納税資金を確保しておく必要がある。
このように、事業承継を進めていく上での課題解決は時間を要するものばかりです。
経営において売上収益の確保に向けた取組はもちろん重要ですが、事業承継に向けた準備を進めていくことに「早すぎる」ということはありません。
まずは、自社の現状把握から始めてみませんか。
【執筆者】中小企業診断士 吉盛 茂貴
(一社)兵庫事業承継サポートとは
✅中小企業の事業承継支援を目的とした専門家(中小企業診断士・税理士・弁護士・司法書士・社会保険労務士・行政書士・ファイナンシャルプランナー等)集団です。
✅事業承継の課題(株式移転・株価対策・資金対策・事業譲渡・後継者育成・知的資産の承継等)にワンストップで対応します。
✅上記支援と合わせて、事業承継に課題を抱える経営者向けセミナー・相談会、後継者塾の開催を行います。