
現在の経営者から次世代の経営者へバトンタッチするにあたり、事業の資産状況や財務の整理、法的準備など対応すべき課題は多くありますが、重要課題のひとつに自社の“経営の軸”の共有があります。
企業理念やビジョンを既に定めている企業様においては「そんなの会社案内にも書いているから知っているよ」と思われるかもしれません。
しかし、その背景に込められた経営者の想いや自社の強みを改めて共有することは、環境変化の激しい昨今においては特に、時代に応じて変えていくべきことと変えないことを判断する経営者としての価値観ともいうべく“経営の軸”を引き継ぐ重要な意味があります。
“経営の軸”を共有するために最も重要なことは、新旧経営者で議論を重ねることです。それぞれ経験してきた業務や時代背景は異なるでしょうが、蓄積された自社の組織風土や強み・ノウハウは何かという解には相通ずるところがあるはずです。
今回はこのような議論を通して“経営の軸”を明確にし、独自の「価値創造ストーリー※1」を構築するための効果的なプロセスをご紹介します。このプロセスは事業承継のみならず、自社の存在意義を確認する際にも適用できますので、ぜひご活用ください。
※1:社会やステークホルダー(顧客やサプライヤー、地域住民、従業員などの利害関係者)にどのような価値を提供していくのか、その根拠となる自社の企業理念やビジョン、強みを交えて整理したものと定義します。
<価値創造ストーリー構築プロセス>
STEP1 |
自社の経営資源(インプット)とビジネスモデル※2を整理する
※2:収益を獲得するための事業活動の仕組み
ヒト・モノ・カネなど自社で検討しやすい切り口を使い、まずは強みを整理していきます。強みは組織固有のものであることが重要です。
そのため、他社が簡単に購入できる設備や特定の個人だけが有しているスキルではなく、自社が築き上げてきた組織的なノウハウなどを挙げてください。また、ビジネスモデルの中で他社と差別化できている点はどこかを整理することで、自社の競争優位性が見えてきます。
STEP2 |
どのような社会課題を解決することで価値を提供したいか(アウトカム)を検討する
自社の強みを活かすことで優れた製品・サービスを創ることができるかもしれませんが、それは本当に社会から求められているものでしょうか。
もしニーズを捉えられていなかった場合、せっかく創り上げたものが売れずムダになってしまいます。そうならないためにも、社会から求められているものは何か、人々が何に困っているかに着目することが重要です。
顧客やステークホルダーから情報を得ることも重要ですが、昨今であればSDGsなどから自社が解決したい社会課題を探索するのも一案です。このような社会的なニーズの探索と、自社の強みを掛け合わせることで創出できるオリジナルの提供価値を自社のアウトカムとして設定します。
STEP3 |
アウトカムを実現するために、不足するインプットとビジネスモデルの要素をどう補うか検討する
インプット、ビジネスモデルの整理とアウトカムの設定ができたら、アウトカムに向けて現状の自社に不足しているものは何かを議論します。インプットの要素から、専門的な人材が足りない、キャッシュが足りない、ビジネスモデルもこれまで製品しか提供してこなかったがサービスにも手を伸ばさないといけないなど、足りないものを可視化します。
そして、それらを獲得するために何をどのようにしていくか、中長期的な戦略と施策を時間軸も含めて考えていきます。このプロセスを通じて、新旧経営者が自社の未来をしっかりと議論し、“経営の軸”を継承することが重要です。
そして、アウトカムや今後取り組む中長期的な戦略・施策は機密情報を除き、経営者だけでなく従業員をはじめとするステークホルダーとも共有し、強固な協力体制を構築することも成功の秘訣です。
【執筆者】中小企業診断士 岡奈央子
(一社)兵庫事業承継サポートとは
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